カテゴリ:日記 |
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2009年 02月 02日
男は電話が掛かってくるのを恐れていた。
いつもお昼休憩を取っている12時半に掛かってくるその電話の相手は、 男のよく知らない人物で、 そのくせ男にタメ口で話しかけ、 必ず最後は馬鹿にするのだった。 「フランスが今何時かわかるか?」 昨日の電話の内容だ。 全く自分と関係のないフランスが何時だろうと 男の知ったことではない。 「わかりません」 そう答えると電話の相手は、 「なんでそんなことも知らないんだ!」と 男を罵倒した。 今日はアメリカか中国の時間を聞かれるかもしれないと、 男は事前に時差を調べていた。 12時半。電話が鳴った。 男は仕方なく電話に出る。 「もしもし」 「やあ、こんにちは」 少し親近感のある声で話しかけられる。 いつものことだ。 「今日はどういったご用件でしょうか?」 「3日前に何を食べたか教えて欲しい」 「私ですか?」 「俺の食べたものなど君が知るわけ無いだろう」 相手は少し偉そうに答えた。 「ええ、三日前… 覚えてないですね」 「自分のことだろう?そんなことも知らんのか!」 相手はいつものように男を馬鹿にした。 「もう出ませんから、電話。忙しいので」 男はそういうと相手が電話を切るより先に受話器を置いた。 少しだけ胸がスッとした。 しかし、しばらくすると社長が男の部署へやってきて、 「急に電話を切るなんて失礼だろう!」 と男に向かって叫ぶと、泣きながら出て行った。 なにが起こったのかわからず、 しばらく呆然としていた男だった。
2007年 03月 20日
男はほとほと働くのがイヤになった。
それまで会社のために、上司のために、恋人のために、家族のために 働いていたわけだが、 経営者が変わり、会社の方針が変わると、 それまで優しかった上司たちが無駄に厳しくなった。 そして上司たちは無駄に「給料二倍」と言いはじめ、 コストカットだと言いながら同僚たちの首をさりげなく切り始めた。 はじめに切られたのは右前の席に座っている山田君で、 いつものようにエッチなサイトを会社のパソコンで見ていたところを 上司に見つかり、さりげなく首を切られた。 彼の首は一瞬、宙に飛んだがまた元の体に戻り、 「すいませんでした」と言うとそのまま会社を後にした。 次に切られたのはお茶係のクミさんで、 茶柱を無理やり立たせようとしていたところを 上司に見つかり、さりげなく首を切られた。 彼女の首は一瞬、宙に飛んだが湯飲みから目を離すことはなかった。 山田君が首を切られた時はみんな仕方ないと思っていたが、 癒し系のクミさんが首を切られて、 上司に対する反感が積もり始めた。 「茶柱くらいなんなんだ」 しかし上司は大きな鋏を片手に社内を見渡していた。 男はいつか革命を起こすことを胸に秘め、 誰にも見つからないよう袋に包んで捨てた。
2006年 10月 21日
男の畑にはたくさんの花が咲いている。
世の中に存在するすべての色がそこにはあった。 男は日々の疲れを畑仕事で癒していた。 ある日、花が何本か盗まれているのを見つけた。 男は腹を立て、その日は一日中、イライラしていた。 心の中では盗人への罵詈雑言があふれ出て止まらなかった。 次の日、朝早くに畑に行くと、 畑の真ん中に大きな足跡があり、 たくさんの花が潰されていた。 男は大声で畑を踏み荒らした見えない相手に向かい、 罵声を浴びせかけた。 ちょうどその時、雲の間から大きな足が降りてきて、 男の畑をひと踏みした。 男は空を見上げたが、 足の持ち主は大きすぎるのか 雲に隠れて姿が見えなかった。 男は、すぐに足をどけるよう叫んだが、 大きな足はぴくりともしなかった。 男の怒りは限界に達した。 その場で飛んだり跳ねたりし、 空に向かって知っているすべての汚い言葉を吐き捨てた。 足にその声が届いたのか、 少し浮かび上がった。 が、今度は別の位置を踏みしめた。 足は男の言葉を無視するように次々と花を踏み潰した。 すべての花を踏み潰すと足はまたぴたりと動かなくなった。 男はそれを見て、力なく地面にしゃがみこむと、 自分の足元に小さな花畑があった。 男は自分で自分の花畑を踏み潰していたのだった。
2006年 10月 19日
男は顧客からクレームを受けた。
なんでも男の口から黄色い玉が出て、 顧客に当たったのだという。 男には心当たりがなかった。 男は顧客に直接会って謝罪したが、 いつ黄色い玉が自分の口から出たのか、 黄色い玉とは何なのか、 気になって尋ねた。 顧客は顔を真っ赤にしだし、 鼻から真っ黒な玉が次々と出てきた。 男は呆気に取られその様子を見ていたが、 隣にいた男の上司が「申し訳ございません」 と言うと顧客はそのまま帰っていった。 男は上司に「なんなんでしょう」と尋ねたが 上司は「わからん」と言った。
2006年 09月 20日
いつものように男は部屋で退屈しのぎに煙草に火をつけた。
男が吐き出した煙はゆっくりと昇っていき、 天井まで到達するとくすぶり始め、 どこかの絵本で見たランプの精のように 煙草の精が姿をあらわにした。 煙草の妖精はにやっと笑うと、 「こんばんは」と言った。 男も少し驚いたが「こんばんは」と挨拶した。 「煙草がお好きなようですな」 妖精はそう言うと白い煙を吐きながら フォッフォッフォッと笑った。 「体に良くないですよ」 男は「余計なお世話です」と丁寧に返答すると、 つばを吐きかけたが、自分の顔に落ちてきた。 妖精はまたフォッフォッフォッと笑った。 男は冷静になって妖精に話しかけた。 「もし私が煙草を吸うのをやめたらあなたは出てこれないでしょう? この世の中に」 妖精は冷静に答えた。 「別に出てこれなくても困りませんから」 「でもつまらないでしょう、出てこれなくなったら」 男の質問に妖精は少し考えて、 「いまも大して面白くありませんよ」 と答えた。そして、 「あなたは面白いのですか?」 と男に聞き返した。 男はとても悩んだ。 いま自分は面白いのだろうか。 一体全体、面白いとはどういうことなのだろう。 長い間、考えていたせいで煙草は根元まで燃え、 火はゆっくりと消えていった。 火が消えて、煙が出なくなると 煙草の妖精もぼんやりとして、やがて消えてしまった。 男は妖精が消えたことにも気づかずに どう返答しようか考えていたが、 窓の外が明るくなって朝が来たことに気がついた。 男はあわてて布団に入り眠ってしまった。 つい夢中になって考え込んだことを布団の中で反省した。
2005年 11月 22日
男にはもう一人、自分と同じ顔をした男が、
この世の中にいることを知っている。 その男と初めて会ったのは大学のコンパだった。 田舎から上京したばかりの男は、 少し緊張していた。 その男は、始めてみんなと一緒にお酒を飲むにもかかわらず、 なれなれしく、女の子の膝を枕にして眠っていた。 周りにいた連中は大して気にする様子もなく、 自分の存在をアピールするため、 一生懸命、マイクを握り締め、歌っていた。 男は、女の膝で眠る男をみながら、 こんなに奔放に生きられたら楽しいだろうと思った。 男と男の顔はほとんど一緒なのに、 どうしてこうも違うのだろうか。 しかし、男は一度も授業には現れなかった。 男は授業に出るたびに男を捜したが、いない。 みんなで酒を飲み始めると、 急に現れ、好き勝手にしゃべり、怒鳴り、笑い始める。 男はどんどんこの男のことが嫌いになっていった。 回りに迷惑をかけているのに気づかない無神経さが気に食わない。 飲み会だけに現れるこの男のことを男は意識していたが、 男は男のことを意識していないようだった。 男はだんだん男のことがわかるようになってきた。 この男が酔っ払って醜態を晒した次の日は、 男がみんなに謝罪しなければならなかったからだ。 もっと自分のことを意識してほしい、 まじめな男はそう思った。
2005年 11月 20日
男の家に男の母から荷物が届いた。
中には、米、大根、にんじん、大根、そばが入っていた。 既製品がなくて、少しむっとした男だったが、 それでも少しはありがたいと思った。 四つの食べ物で何が作れるだろうか。 男は七年間の一人暮らしの経験を生かして、 全部の食材を使ってなにか作れないかと考えた。 しかし、米とそばで主食がかぶってしまう。 母はいったい何を考えてこの食材を 男に送ったのだろうか。 母の愛情は海の深さより深いらしい。 しかし、海に潜ったことのない男にはわからなかった。 だから、とりあえず海に潜ってみようと思う。 深い海に沈みながら、 男は何を感じるだろうか。 そんなことを考えながら男は今日も日記を書いた。
2005年 11月 16日
朝、男が目を覚ますと、
今日がいつもと違うような気がした。 何が違うのか…… 男は辺りを見回すと、、 昨日、閉めたはずの窓が開いていることに気がついた。 確かに閉めたはずなのに…… 男は布団から出ると窓を閉めた。 もしかして誰かがこの窓から侵入したのではないか。 男は部屋の隅々まで見渡したが、 それらしき人間はいなかった。 男がこの朝感じた違和感を言葉にするのは難しい。 無理に例えるなら、野原で寝ていたはずなのに、 気づいたら自分の家のベッドの上にいたというようなものか。 窓を閉めると幾分、違和感も和らいだ。 男はいつものように朝の支度を始める。 しかし、薬缶(やかん)を火にかけたとき、 やっぱり、違うと感じた。 今日の薬缶は、昨日の薬缶ではない。 今までよりも、薬缶が薬缶であることを強く主張するのだ。 誰かが薬缶を取り替えたのではないか。 しかし、薬缶を取り替えるために人の家に侵入するような輩がいるだろうか。 朝食を済ませ、外に出ると、冷たい風が男に吹き寄せた。 男は風に吹かれるまま、ススキのように身を反らせると、 いつもより澄んだ空が目に映った。 そして、気づいた。 男の家に冬が来たと。
2005年 11月 15日
男がいつものように自転車で帰宅すると、
今朝、捨てたはずの燃えるゴミが回収されず残っていた。 なにか捨ててはいけないものが入っていたのだろうかと、 家に帰って袋を開ければ、小さなペットボトルが紛れ込んでいた。 うっかりしていたと、ペットボトルを取り出し、袋を再び縛った。 月曜日。燃えるゴミの日。 男は回収されなかった燃えるゴミを再び捨てたが、 帰宅すると、また残っていた。 仕方なく、燃えるゴミを家に持ち帰り、袋を広げ、 捨ててはいけないものが入っていないか調べ始めた。 しかし、それらしきものはない。 どうして自分のゴミだけが回収されないのか。 ゴミの回収日も確認したが間違っていなかった。 水曜日。燃えるゴミの日。 今日こそはと男は会社を後にしたが、 もうすぐ家に着くというところで思わぬものを目撃した。 自分が捨てたはずの燃えるゴミが散歩していたのだ。 男は自転車で燃えるゴミに横寄せすると、 荷台にかかった紐でゴミの首をぎゅっと締め、 肩に担いで持ち帰り、ゴミ捨て場近くの電柱に縛り付けた。 ゴミはどこかで一杯引っ掛けたようでぐったりしていた。 次の日、男は朝から具合が悪く、仕事を休んだ。 金曜日。燃えるゴミの日。 男は燃えるゴミがどうなったのか気になっていた。 朝は、なんとなくゴミ捨て場の近くを通りたくなくて、遠回りして出勤した。 まだ体の具合がよくないから、 あの燃えるゴミが残っていたら入院するかもしれない。 恐る恐る男はゴミ捨て場に近づく。 そこには燃えるゴミは残っていなかった。 男は少しほっとした。 しかし、電柱には燃えるゴミを結んだ紐が引きちぎられて残っていた。 ゴミ回収の人が引きちぎったのか、それとも燃えるゴミがやったのか。 男はどちらかわからず、憂鬱な週末を過ごした。
2005年 11月 13日
男は酒を少し引っ掛けて、千鳥足で家路に向かう。
もう午前五時なのに外は暗い。 夏の日の気分が抜けきれず、 太陽がないだけでこんなに寂しいものかと一人歩く。 上を見上げれば、雲は西から東へと足早に走り去り、 お月様が顔を出した。 どうも今晩は、と頭を下げれば、 お月様はニコニコと笑っていらっしゃる。 太陽様の代わりに俺の家路を照らしてくださってる。 何かひとつお月様を楽しませてやらなきゃ申し訳ない。 男は近くの自動販売機でビールを買って、 一気飲みしま~す、とあおり始めた。 歩きながら、ちょうど缶ビールを飲み干したとき、 何かにつまづいて男は転んだ。 その瞬間あたりは真っ暗になった。 男は手探りで自分をつまづかせたのが何か探し始めた。 手に触るものがある。 男は手に取ると、それを顔すれすれに近づけた。 一本のコンセントだった。 抜けたコンセントを男は元通りプラグに差し込むと、 空の上のお月様がチカチカッとして、 再びあたりを照らし始めた。 なるほど、近頃じゃ、お月様も電動式か。 男はそう思うと、とぼとぼと家へ向かった。 < 前のページ次のページ >
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